こんにちは、ナニワ研磨工業公式通販サイト「TOGIBU」編集部です。
「生け垣がきれいに刈りたいのに、うまくできない…」
「草刈りハサミの切れ味が悪い気がするけど、自分で研ぐのが心配…」
そのお悩み、今日で終わりにしませんか?
本記事では、創業80年を誇る砥石メーカーである当社が、刈込鋏(かりこみばさみ)の正しい研ぎ方を解説していきます。
今回の執筆にあたり、当社社員への取材もしております。
刃物のプロによる視点と技術を、ぜひご家庭にも取り入れてみてください。
草刈り道具『鎌の研ぎ方』はこちら:https://togibu.com/blogs/toishi-no-arekore/kamanotogikata
はじめに:なぜ刈込鋏は手入れが必要なのか?
結論からいうと、効率性、操作性、安全性の3点が向上するためです。
まずはその特徴から理解していきましょう。
刈込鋏の特徴
植木鋏、剪定鋏、高枝切り鋏…
剪定に関するハサミだけでも数多くの種類があります。
その中でも刈込鋏は以下のような特徴があります。
- 刃渡りが長い
- 刃の全体を使って剪定する
- 表裏がある
刃渡りが長い
刈込鋏は、刃渡りだけで15cm、持ち手も含めたら1mあるようなものも珍しくありません。
剪定に関するハサミの中では、かなり大きな部類です。
なぜこのように大きな形をしているのでしょうか。
生け垣の剪定を刈り込みといい、刈込鋏はそれに特化したハサミです。
生け垣は、目隠しや風除けとしての機能を持っています。
その機能のために、一般的なものでも1~2m、
防火も兼ねた高垣(たかがき)では、3~4mほどの高さがあります。
仮に、生け垣の高さを「2m」、長さを「4m」、幅を「1m」としましょう。
単純計算で、表面積は28㎡。畳にすると17.3枚(※)ほどになります。
※1畳=1.62㎡として計算
小さなハサミではとても追いつかない作業量のため、
使い方の合った効率性の高い長い刃渡りが必要になります。
刃の全体を使って剪定する
摘心や切り戻しなど、その多くの剪定方法に共通するのは、
狙った枝(花/芽)をピンポイントで取り除くという点です。
そのため用いられるハサミは、取り扱いやすい小型なものとなります。
生け垣の刈り込みは、全体的に樹形を整える剪定方法です。
あらかじめ決めておいたラインに沿うように、長い刃渡り全体を使って作業していきます。
つまり、一度に切る量が多いということです。
平面であれ、曲面であれ、思わぬ方向に切ってしまわぬよう、安定した操作性が重要です。
表裏がある
日本造園組合連合会によると、
『刈り込みバサミには、表と裏があり、刃先が反っているほうが表であり、この刃の反りが手前側に向くようにするのが正常な持ち方である。(中略)玉ものの上面の曲面部を刈り込むときには、ハサミを裏返しに使うと美しい丸みがつけられる。また、生垣の天端など高所を刈り込むときも、ハサミを裏返したほうが作業がスムーズに行える。』
出典:一般社団法人日本造園組合連合会HP(参照 2025-04-17)
このように表と裏を使い分ける設計は、かなり特殊な設計といえるでしょう。
手入れが必要な理由:長い刃渡りと刃の裏表を活かして、楽しく作業するため
適切な手入れをすることは、刃物の性能を最大限に生かすこと。
効率的に、狙った形で安全に作業できれば、ストレスなく作業ができます。
ご自宅のお庭づくりをもっと楽しむためにも、まずは一歩目を踏み出してみましょう。
準備研ぎに使う道具と研ぐ前にチェックしたいこと
研ぎに使う道具
研ぎ自体に使う道具は以下です。
- 刈込鋏
- 砥石(*)
- 水
- ウェス(水分を拭き取る:キッチンペーパーや雑巾でも可)
- サビ止め用の油(ツバキ油など)
*砥石の種類は「事前準備:まとめ」を参照
砥石は、水に浸けておきます
基本的には5~10分ほどですが、ご心配な方は商品ごとのメーカーの基準をご確認ください。
研ぐ前にチェックしたいポイント
また研ぐ前に以下の2点も確認しましょう。
これらの状態によって、必要なものや手順が変わってきます。
チェック1. ネジの部分(要)が外れるかどうか
ネジがはずれる場合は、事前に分解して2本の刃にします。
特に小さなパーツはなくさないように気をつけましょう。
外れない場合は、ハサミを大きく開いた状態で研ぐことになるため、
小ぶりな鎌砥石を準備します。
チェック2. 刃に植物のヤニがついていないか
植物のヤニが刃の表面に残っていると、正確に研ぐことができません。
専用のクリーナーでなるべくきれいに除去しましょう。
ヤニが固まってしまっている場合は、ナイフなど硬いもので削り取る必要があります。
事前準備:まとめ
研ぎの基本道具+αで、事前に必要な手順やモノを準備しておきましょう。
以下の画像を、参考にしてください。
砥石メーカー直伝:刈込鋏の正しい研ぎ方
基本の手順
どのような場合でも共通する手順は、
- 小刃研ぎ(表面を研ぐ)
- バリ取り(裏面を軽く研ぐ)
- 裏押し(刃先に角度をつける)
- サビ止め油を塗る
の3点です。
これをもとに解説していきます。
A-1. 小刃研ぎ(表面を研ぐ) - 分解したハサミの場合

基本的な研ぎ方は、包丁と変わりません。
刃には表裏があります。
端的にいうと、段差がある方が表、平たく(または凹面)になっているのが裏です。
はじめは、この段差がある表面から研いでいきます。
かまえかた
砥石が動かないように固定したら、片方のハサミを右手でかまえます。
人差し指を刃のみね(背)にあて、刃側を手前にします。
砥石とハサミを重ねて、刃の斜めになった部分(=切刃、きりば)を、
砥石に対して平行になるようにあてます。
左手の指で砥石と挟むように、切り刃を上から抑えると安定しやすいです。
指は砥石にあたらないようにしてください。
研ぎ方
角度を維持したまま、往復を繰り返すことで、研ぐことができます。
砥石の表面に泥がでてきた場合も、そのまま研ぎ続けてください。
泥に含まれる研磨剤によって、研ぎの効果が高まるためです。
刃の先端部分(=切っ先、きっさき)から柄に近い部分にかけて、
まんべんなく順に研いでいきましょう。
1か所の往復回数は30回を基準とし、場合に合わせて回数を調整してください。
また、砥石表面の水分が乾いてきたら、都度水をかけて足してください。
研ぎ終えたら
刃先全体にハサミの削りカス(カエリ、バリ)がないかを確認します。
指が切れないよう、刃の裏側&みねの部分から刃先にかけて指をスライドしてください。
目で見えないほどの小さな粒のため、指先の感覚で確認します。
A-2. バリ取り(裏面を軽く研ぐ) - 分解したハサミの場合

裏面は角度をつけずに、砥石に平らになるようにあてます。
全体的にまんべんなく、3往復を基準としてください。
A-3. 裏押し(刃先に角度をつける) - 分解したハサミの場合

2を終えた刃は、かなり鋭くなっているはずです。
この状態は、大変切れ味の良い状態なのですが、同時に刃が欠けやすいとも言えます。
特にハサミの場合は、かみ合わせたときに刃があたってしまう可能性があります。
これを防ぐために、刃先にうっすらと角度をつけて研ぎます。
刃物メーカー「吉岡刃物製作所」によると、
『裏押しの角度は20~30度位、大きさは0.3~0.5ミリ以内にしてください。』
https://yoshioka-hamono.com/images/download/pdf/catalog.pdf (参照 2025-04-21)
1~3の工程を、もう片方のハサミにも行います。
A-4. サビ止め油をつける - 分解したハサミの場合
ハサミについた水分を拭き取ったら、サビ止めの油をつけていきます。
刃全体に加え、ハサミの間、ネジの部分にもつけていきます。
組み立てる際は、ネジを締め過ぎないようにしましょう。
刃と刃の隙間をある程度確保しないと、切りづらくなるだけでなく、
刃が欠ける原因にもなってしまいます。
B. 分解していないハサミの場合
ハサミを分解していない場合は、刃を大きく開いて、
片方の切っ先を木片などに刺して固定します。
水に浸けておいた鎌砥石を手に持ったら、
表面の切刃と砥石を平行にして研いでいきます。
研ぎ方が変わりますが、基本的な手順と使い方はAと変わりません。
注意点
砥石での研ぎに、慣れない方もいらっしゃると思います。
焦らず、安全を第一に作業してください。
刃物を扱っているため、ケガの可能性もゼロではありません。
もし失敗したら
もし失敗してしまったと感じたら、プロに頼るのも選択です。
刃研ぎ屋さんやメーカーへの研ぎ直し依頼、
場合によってはお近くのホームセンターでも可能です。
ぜひ調べて、問い合わせてみてください。
基本をコツコツと。使った後のメンテナンス
研ぎ以外ではどんなメンテナンス方法があるのでしょうか。
きれいに洗う
植物のヤニは放置すると固くなってしまいます。
そうならない内に、使い終わったタイミングで洗い流しましょう。
直射日光を避けて、風通しの良い場所で保管する
お持ちの刈込鋏によりますが、刃物は金属、
柄は木製ものが多く使い方に注意が必要です。
つまり、水分が大敵です。
「研いだり、洗ったりしたあとは、水分を拭き取る」
「湿気のこもる場所に置かない」
これらは、どんな刃物にも共通する基本的な使い方と保管方法です。
研ぐべきか?買い替えか?判断基準をプロが解説
買い替えの基準
深いサビが刃に侵食してしまうと、いくら研いだとしても、
その部分の刃先が欠けてしまいます。
「どれだけ研いでも刃先のサビが取れない」
「サビが侵食して刃先がどんどん欠けてしまう」
そんな場合は、買い替え時です。
研いでみないとわからない深いサビ。
みつけた際は、買い替えてみることをおすすめします。
もっと楽に、もっと素敵に!刈り込みを失敗しないためのポイント3選

ハサミが気持ちよく切れるようになったところで、次は刈り込み自体のコツを3つご紹介します。
- 紐でラインを作る
- 太い枝は先に切る
- 低い生け垣は天面から、高い生け垣は側面から
1. 紐でラインを作る
竹竿などを生け垣のサイドに立てて、紐で水平に結びます。
切りたいラインに沿うように紐の高さを調整することで、直線的な生け垣の基準になります。
2. 太い枝は先に切る
本格的な刈り込みの前に、剪定鋏で太い枝は切ってしまいましょう。
仕上げ面よりも5cmほど短くすると、枝がはみ出づらいです。
3. 低い生け垣は天面から、高い生け垣は側面から
生け垣は、「角をきっちり立てる」のが美しいとされます。
1.5mくらいまでの高さであれば「天面」から刈り込むと美しく、それ以上の高さの場合は、「側面」からすると作業しやすくなります。
まとめ:正しい手入れで「一生モノ」のハサミとお庭を
今回は、刈込鋏をテーマに「正しい手入れ」に関して解説していきました。
「自分の道具を自分で手入れする」
「切れ味の良い万全の状態で気持ちよく作業できる」
草刈りや刈り込みをする上で、そんな楽しさが共有できれば幸いです。
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最後までお読みいただきありがとうございました!
参考・出典
- 一般社団法人日本造園組合連合会. "剪定用工具". https://www.jflc.or.jp/index.php?itemid=111&catid=59 (参照 2025-04-17)
- 有限会社吉岡刃物製作所. "両手ばさみの研ぎ方、お手入れ方法". https://yoshioka-hamono.com/images/download/pdf/catalog.pdf (参照 2025-04-21)
- 上条祐一郎. NHK趣味の園芸 増補版 切るナビ! 庭木の剪定がわかる本. 第一版, NHK出版, 2025, p.96-100
- naniwakenma. "砥石を使った包丁研ぎ 片刃包丁編 - How to Sharpen a Single-Edged Knife with a Whetstone【ナニワ研磨工業株式会社】". YouTube. https://youtu.be/4Uk0GiHloS4?si=lakyRNZMp7JIZ-UZ (参照 2024-04-20)
